黒木眼科医院
東洋医学においては目は五臓六腑すなわち全身の各臓器と、中でも肝と関係が深いことが経験的に知られている。
目が物をよく見るためには眼瞼、眼球、涙腺、視神経、脳にエネルギー(気血水)が適度に上昇する必要がある。
食物から胃腸「脾」で消化吸収された栄養分と「肺」で浄化された血液が心のポンプ作用により気血水の通路である経絡を通じて目に上昇する。「肝」は血液を貯蔵し、目に送る量を調節する。「腎」は五臓六腑のエネルギー源を貯蔵し、必要に応じて全身に供給する。又「心」はポンプ作用のみでなく、こころの働きにも関与し物を見ようとする意志が働いてはじめて物を正しく見ることができる。「肝」も又、血液を貯蔵するだけでなく、自律神経の働き(肝気)を調節する。


各臓器で作られたエネルギー(気血水)を全身に散布するルートは
「経絡」と呼ばれ、各臓器から目にも連絡している。
(目に関与する経絡参照)
臓器の働きが正常であり、又この経絡が順調に流れて、初めて目の正常な働きが維持される。

 研究業績 主な著書
和訳 『審視瑶函』 巻上(2011年)巻下(2016年) 六然社、東京 (共著)
学会報告 頁の最後に詳細あり
第2089768号
平成8年取得
愛媛県
山本博司氏との共同
株式会社 パナ・ワールド 

0895-52-1532

自院特許取得機器低周波電気刺激装置
従来の装置よりも低電圧、低電流であるが効果は針治療と同等の効果を有する頭部、眼周囲とも使用可能である。
網膜色素変性、仮性近視、色覚異常、眼筋麻痺、顔面神経麻痺などに応用可能。
現代医学と東洋医学では

臓器の意味が多少異なる。

  • 「肝」は肝臓、交感神経(自律神経の一つ)で血液を貯蔵し、その変化は目によく現れる(肝と目は血液とビタミン Aが多い) 又、精神情緒の活動や気血の流れを調節する。
  • 「心」は心臓、又精神活動のもとであり、血液を全身に送り、こころの働きに関与する。
  • 「脾」は、小腸、膵臓などに相当し栄養分、水分を吸収し全身に送り又血液を血管の中に保つ作用をもつ。後天 的な元気の元である。
  • 「肺」は肺臓、鼻腔、皮膚を意味し酸素を血液に与え血液中の水分を腎、膀胱に輸送し、 後天の元気の       元である。
  • 「腎」は腎臓、脳下垂体、副腎、骨髄、歯、生殖器、脳、視神経を含み、発育、成長、老化、水分の調節、ホルモンの調節に関係し人体の生命活動を維持するのに必要なエネルギー(腎精)を貯蔵し、五臓六腑の要求に応じて供給する。先天的な元気の元である。
  • 「五臓」は、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」
  • 「六腑」は「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」であり、「肝」と「胆」、「心」と「小腸」、
   「脾」と「胃」「肺」と「大腸」、「腎」と「膀胱」は表と裏の関係にある。経絡は血管、神経、リンパ管、又    電磁波(気)の通路と考えられる。
  「目」は、
   これらのエネルギーが適度に上昇すれば目は病気にならないが、食物の過食、又は栄養不良では、脾のエネルギ   ーが、怒りすぎ、心配事、ストレスが多いと肝、心のエネルギーが、汚れた空気を吸引したり、肺の病気で肺の   エネルギーが性生活過多、老化などで腎のエネルギーが、それぞれ適度に目に上昇せず、目の病気をおこす。
  • 「脾」が失調すれば、むくみや筋力低下、出血傾向が生じ眼瞼下垂や眼底出血を発病する。
  • 「肺」が失調すれば鼻腔粘膜、鼻涙管、眼球結膜に異常がおこり、花粉症、結膜炎、涙嚢炎、流涙症を発病する
  • 「肝」「心」が失調すれば、血流に異常を生じ、結膜下出血、眼底出血、中心性網膜炎、ブドウ膜炎、眼瞼痙攣を発病する。
  • 「腎」が失調すれば、遺伝的素因の関与する目の病気。たとえば、強度近視、開放隅角緑内障、加齢黄斑変性、網膜色素変性などが進行しやすくなる。又「腎」はホルモン分泌にも関与しているため、女性では更年期障害を生じ、すなわち腎陰虚が肝陽上亢を引きおこし、イライラ、目の疲れ、乾きを生じる。
  • 「腎」は水分調節にも関与し、前立腺肥大などで排尿障害を生じると水晶体に水分がたまり、白内障の進行を速める。又、涙液分泌異常を生じ流涙症又はドライアイを生じる。
  • 「肝」「腎」は互いに密接な関連があり、肝腎同源と言われ、「腎」の失調は「肝」の失調を引き起こし、眼底出血、緑内障、網膜色素変性、白内障、視神経疾患、眼球運動障害の発病には、「肝」「腎」がとも関与する女性は生理があり、「肝」を重視する。眼精疲労には、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の一つ又は二つ以上が関与する。
 

福山医療センターだより 連載Vol.7 福山漢方談話会・患者さんのための漢方講座 
五臓六腑と目について 
          黒木眼科医院 黒木 悟 

紀元前に編纂された中国伝統医学の聖典『黄帝内経』では「五臓六腑の精は皆目に上る」、肝は血を受けてよく見る」、「肝は目に開竅する」など全ての臓腑が目に関与し、特に肝との関連が深いとされる。目は肝に貯蔵される「血」に栄養を受け、機能する。また肝は「気」「血」の循環や精神、情緒の活動を調整し、ストレスにより機能が変化しやすい。肝は例えば怒りを覚える様な強いストレスを受けると、「気」「血」の巡りを悪化させ、血流の豊富な目に影響し、高血圧動脈硬化のある人では網膜静脈分枝閉塞症、脈絡膜循環障害のある人では中心性漿液性網脈絡膜症を、弱いストレスでは結膜下出血を発症させることがある。また「肝は筋()を主る」とされ筋肉に「血」がよく巡らないと腱が眼瞼痙攣を生じる。また「久視傷血」という記述があり、長時間の注視は「心血」に、即ち延いては肝や目にも影響するとされる。現代医学においても、長時間のパソコン作業は緑内障性視野傷害を悪化させるとの報告がある。また出産後の貧血がある時期に読書など注視作業を行うと眼精疲労、調節障害を生じる。五臓六腑は相互に密接に関連するが、中でも肝と腎は「肝腎同源」と謂れ、特に深く関係する。腎は濾過機能を持つ腎臓の他、脳下垂体、副腎、泌尿生殖器、骨髄、歯など意味し、成長、老化、水分代謝、内分泌に関与し、先天の元気の本である。人体の生命活動を維持するために必要なエネルギー「精」を後天の本である胃腸から受けて貯蔵し、要求に応じて五臓六腑に供給する。腎に貯蔵された「精」と肝に貯蔵された「血」は体の状況に応じて互いに補い合う。女性は月経があり「血」を重視する。先天素因、加齢、飽食、飢餓、過度な性生活により腎が衰えると肝も衰え種々の眼病を引き起こす。腎が衰えれば先天素因が関与する眼病、例えば強度近視、緑内障、加齢黄斑変性、網膜色素変性などが進行し易くなる。また更年期になるとホルモン分泌が減少し、即ち腎の陰虚(液が枯渇した状態)となり、肝の陽気が上昇し(のぼせて)、眼精疲労、ドライアイ、精神不穏などが生じ易くなる。隋の『諸病源候論』、明の『証治准縄』によれば水分代謝に関与する腎、膀胱、脾(胃腸)肺のいずれかが疲労し熱を持ち、肝を傷害し目に熱が上がればドライアイを生じる。流涙に関しては『内経』には、心が悲哀を感じれば五臓六腑も動揺し「液道」を開き、明の『審視瑶函』には肝腎の異常によると記載される。『内経』では脾は水分代謝や血液を血管内に保つ「統血作用」に関与し、失調すれば眼瞼浮腫、黄斑浮腫、しみ状の網膜出血などを生じる。肺は角結膜、涙道上皮であり、角結膜疾患、流涙に関与する。心は、こころの働きを主り、また血液を全身に送るため五臓の君主であり全身疾患に関与する。目では心疾患は加齢黄斑変性の危険因子である。漢方による五臓の治療は眼病に有用である。

福山医療センターだより

連載Vol.17

福山漢方談話会・患者さんのための漢方講座
「肝」と目について
                                                   黒木眼科医院 黒木 悟   

今回は主に「肝」と目についてお話しします。古典の『黄帝内経』に「肝」は①血液を貯蔵しその分布を調整し、②自律神経の、主に交感神経に関与し、「心」と協力して気血の循環や精神情緒の活動を調節し、③筋膜や腱を養い、④胆汁を分泌し、⑤経絡を通じて目に開竅する、また⑥目は「肝」の血液を受けてよく視機能を発揮すると書かれています。現代医学ではビタミンAは肝臓と目には他の臓器の数十倍存在し、慢性活動性肝炎では暗所に目が慣れる(暗順応)までの時間が長くなる事が分かっています。「肝」と目の関連を示す症例を紹介します。症例1は8歳の女児、3週間前、父が事故で入院し母がよく怒るようになり、同じ頃より、見る物がゆらゆらと波打ったり、二重になったり、風船が目の中にある様に思えたり、光が変色したり、暗所では虹や雨が降っている様に見え、後頭部が痛いと訴える(祖母の)。視力両1.0、眼球内、視神経には異常を認めない。顔色不良、覇気がなく、脈は緊張して細く、,舌苔は白く、舌色は正常、肝経が通る右脇腹に圧痛あり、寝つきが悪い、めまい、気分不良、怒り易い、下腹部痛などの症状がある。父母からのストレスを受け上記②、⑥が乱れ、胃腸にも影響したと考えて、肝のストレスを除き、気血の流れを改善し、また消化を助ける抑肝散加陳皮半夏と虚弱体質や腹痛に有効な小建中湯という2種類の漢方を処方し、7日後、眼と全身の症状は消失した。この様な眼症状は『審視瑶函』等に「妄見」と診断され、「心」も関与すると記載される。症例2は63歳女性、1年以上前より両眼の充血と霞み、眩しさ、眼痛を繰り返し、両眼ぶどう膜炎と診断されプレドニン内服にても症状が改善せず漢方治療を希望する。視力右(0.3)左(0.5、)眼圧両正常両眼角膜周囲の充血(毛様充血)、両瞳孔の変形を認める。脈は緊張し触れ易く力強い(肝熱又は湿邪)、舌苔は厚く黄色っぽい(湿と熱)、舌の色は暗紫色(血流障害)、臍の下部に硬い部位がある(血流障害)、口が苦い(胆熱)、暑がり、頻尿、残尿感(湿と熱)を認める。甘いもの、脂っこいもの、酒の摂取過多により胃腸が弱り又運動不足により、脂肪、高血糖などの余分な栄養分(湿熱)が肝臓、胆嚢に影響し(肝胆湿熱)、体質によっては、「肝」の経絡を侵し肝経に沿って下行すれば、残尿感などを、上昇すれば、口の苦さ、目の充血、霞みなどを生じると考えます。この症例では肝胆湿熱をとる竜胆瀉肝湯に血流障害を改善する牡丹皮と桃仁という生薬を加えた煎じ薬を処方し、2週間で症状が改善した。上記①②⑤⑥が関与した症例です。他の症例で肝炎による黄疸で目が黄色になるのも肝胆湿熱と考えます。眼瞼痙攣の大半は、「肝」がストレスを受け、目の周りの筋肉の腱が上記①②により栄養を受けられず起こります。①②は全身にも影響し、脳卒中、心筋梗塞、胃潰瘍などにも関与します。

福山医療センターだより   連載Vol.12

福山漢方談話会・患者さんのための漢方講座

「腎」と目について            黒木眼科医院   黒木 悟

稿で五臓と目について説明し、五臓の治療が眼病に有用な場合があることを述べました。今回は「腎」と関連が深い2症例を紹介します。症例1は74歳男性、20年前より単純ヘルペスによる右角膜実質炎の発作を繰り返し、視力低下が徐々に進行し、ステロイド剤の点眼、抗ウイルス剤の軟膏点入が無効であった。右角膜中央の実質混濁と浮腫、角膜周囲の充血を認め、矯正視力は(0.09)であった。糖尿病、高血圧、高脂血症がありインシュリン注射、その他西洋薬の内服を継続し病状は安定していたが腎機能はクレアチニン2.20mg/dlと悪化していた。漢方医学的には、舌に白苔が有り舌質は赤みに乏しく(陽虚)、脈は細く緊張し(肝血虚)、押さえるとすぐに拍動を触れなくなる(気虚)。脈拍数は正常範囲にある。右眼の充血(戴陽)、両眼の疲れ乾燥感、夢が多い(肝血虚)、動悸、息切れ、ふらつき(心血虚、肺気虚)、頻尿、残尿感、両下肢の浮腫、両膝のだるさを認め、両下肢の冷えを自覚するが立ち上がる時には足の甲が燃える(腎陽気虚、真寒仮熱,格陽)。腹診にて右脇腹と左下腹部と臍下部に圧痛を認める。「腎」の冷え(腎陽虚)、全身の元気の低下(気虚)、「肝」「心」の血の不足(血虚)、血流障害(血瘀)と診断し、牛車腎気丸と補中益気湯のエキス剤を処方し、全ての症状が1ヵ月目より徐々に改善し始め、目の発作も消失し、1年半後右視力(0.6)、クレアチニンは1.68mg/dlと改善する。症例2は65歳男性、10年以上前より糖尿病が有り徐々に右眼視力が低下し1年前に右眼手術を受けるも黄斑浮腫が改善せず視力は(0.2)となる。1年以上前から高血圧、高脂血症、痛風、腎症で西洋薬を内服中である。HbA1c9.3%,クレアチニン2.10mg/dlと平均血糖と腎機能は悪化している。漢方医学的には、舌苔は白く厚く、舌質は暗紫色、脈は幅広く、拍動を触れやすく、拍数は正常。夢が多い、口渇があり冷たいものを好んで飲む、大便は出始めは硬く後は軟らかい。頻尿、両下肢のむくみ、精力低下、全身のだるさを認める。「腎」」が衰え、「肝」がストレスを受けて「脾」(胃腸)が弱りまた血瘀を生じ、気虚または、湿邪がある(余分な水分がたまっている)と診断し四逆散、桂枝茯苓丸、猪苓湯を合わせた煎じ薬を処方する。下肢のむくみと右視力は(0.4)まで改善するが全身のだるさは軽快せず、むくみだけによるだるさでは無く、気虚にもよると考え、元気を増し、むくみも取る黄耆という生薬を多目に追加すると、1ヶ月で全身のだるさと下肢と眼底の黄斑部のむくみが殆ど消失する。中止すると悪化するため2年後まで継続し右視力(0.7)、HbA1c8.1%、クレアチニン1.6mg/dlと改善する。症例1と2は「腎と目が関連がある可能性を示し、また症例1の補中益気湯にも黄耆が含まれ、これらの2症例はむくみを取るにも気の働きが重要であることを示している。元気な人が黄耆を内服すると血圧が上がるので注意が必要です。

福山医療センターだより 連載Vol.35

 患者さんの漢方談話会 ・患者さんのための漢方口座            
ドライアイの漢方治療              黒木眼科医院  黒木 悟

ドライアイは現代医学的には涙の分泌不足または蒸発過多または成分の異常により、目の乾燥感や異物感を主症状とする疾患である。涙の分泌を促進したり粘液を補充する点眼液による治療法はあるが、効果が十分とはいえない。

古典におけるドライアイは、紀元前の『黄帝内経』には、「肝は目に開竅し、肝の液は涙、肝腎同源、腎は水の下源、肺は水の上源、脾(胃腸)は水分代謝を行う」とあり、ドライアイは腎肺、脾、肝と関連が深いと考えられる。また「物を長く注視すると血を損なう(久視傷血)」とあり、目は血流が豊富なので、眼症状は血の影響を受けやすく、血を損なう状態、即ち体内を巡る血が少なくなる血虚という状態になると水分も枯渇し易い。隋代の『諸病源候論』には、「もし臓腑が疲労し、熱を生じ、その熱気が肝を傷害して目に上昇すれば、目は熱くなり、乾燥して異物感を生じ、発赤して痛くなる(目渋候)」とある。唐宋代の『銀海精微』には「月経困難のある女性では目に異物感や痛みを感じる(血室“子宮”渋痛)」とある。また明代の『証治准縄』には、「膀胱に熱があると尿は汚れ、太陽膀胱経(膀胱から背中を通って目に繋がる経絡)を通じて目に伝達され、涙も熱く濃くなり枯渇する(熱結膀胱証)」とある。また『審視瑶函』には「目の酷使、考え過ぎる事,大酒、乾燥させる物の過食、過度な性生活、水分が少なく暑がりの体質(陰虚)、逆に冷え症(陽虚)でも目が乾燥する(神水将枯症、乾渋昏花症)」とある。

治療例を紹介する。①更年期障害の女性では、加齢によりホルモン分泌不足(腎陰虚内熱)となり肝腎同源で肝陰虚内熱となり、肝熱が目や脳に上昇し、目の乾き、のぼせ、いらいらを生じまた血虚となり、目の乾きを生じる。この場合は加味逍遙散などを処方する。②加齢による腎陰虚、即ち、腰痛、脚力の低下、口乾、耳鳴、便秘などの症状があれば、六味丸に麦門冬湯を加えたもの、或いは滋陰降火湯を処方する。③パソコン、手芸などの近くの物を注視する作業を長時間続ける人では「久視傷血」により、血虚となり、また集中、緊張するため肝心の気の欝滞を生じ、肝心の熱が目に上昇して、目の乾きを生じる。この場合は、四物湯に麦門冬湯を加えたもの或いは加味逍遙散を処方する。④残尿感、頻尿を伴う人には、「熱結膀胱証」と考えて猪苓湯などを処方する。⑤高血圧、頭痛、目の充血があれば釣藤散、滋陰降火湯などを処方する。⑥産後の失血による血虚、気力の低下(気虚)があれば、十全大補湯、人参養栄湯、芎帰調血飲などを処方する。⑦月経困難症があれば「血室渋痛」と考え、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、温経湯などを処方する。現代では、月経中は、涙の脂肪成分の比率が変化することが解っている。⑧めまい、口渇、立ちくらみの症状があれば苓桂朮甘湯を、⑨下半身の冷え、顔ののぼせがあれば温経湯などを処方する。東洋医学ではドライアイのように一見眼だけの反応のように見えていても様々な臓器の連携した全身反応の変化として理解して治療をし、有効な結果を引きだしています。

 

福山医療センターだより 連載Vol.50

福山漢方談話会・患者さんのための漢方講座

つかれ目の漢方治療                黒木眼科医院 黒木 悟

つかれ目は眼精疲労ともいい、緑内障などの眼病が無く、目が疲れる症状を指し、現代医学では、乾き目の点眼薬、ビタミン剤、血管収縮剤、抗炎症剤などの点眼薬で治療します。漢方治療は、目と関連がある全身症状を調べ、全身を治療することにより、目の症状の改善を図ります。目は五臓六腑(内臓)、特に肝との関連が深いこと、また気血水の流れの影響を受けることは、前回説明しました。症例を呈示します。

まず肝の異常による症例。40歳、男性、職務上、精神的ストレスを長期にわたって受け、目の疲れ、充血、目の裏とこめかみの痛み、不眠、肩こり、足の冷えを訴える。脈は弦(緊張)、舌下に瘀斑(うっ血斑)、胸脇苦満(上腹部の圧痛)、少腹硬結(臍傍の圧痛と硬結)を認める。これはストレスにより肝の気を流す働きを傷害し、気の欝滞を生じ、血の流れを悪化させ、肩こり、足の冷えを、血流の多い目に熱を生じ充血、眼精疲労を生じ、肝と表裏関係にある胆にも影響し、目の裏とこめかみの痛み、不眠を生じたと考え、肝胆に小柴胡湯、血に桂枝茯苓丸を併せて処方し、全ての症状は改善した。次は腎と関連する症例。43歳、男性、職業タクシーの運転手、目のつかれと乾燥感、口渇、めまい、頻尿、下肢のほてりを自覚し、臍の下を圧迫すると柔らかい(臍下不仁)。これらの症状は腎陰虚と称し、六味丸を処方し、2週間後には頻尿が改善し始め、その後他の症状も徐々に改善し、3ヶ月で全ての症状が消失する。次は心と脾(胃腸)に関連する症例。61歳女性、目がだるく、開け難いと訴える。脈は細く弱く、舌は淡紅色で腫れて歯痕があり、顔色は青白く、後頭部痛、動悸、息切れ、咽頭閉塞感が有り、気分がいつもすぐれず、全身が疲れ易いと訴える。動作は緩慢で無気力、軽度の眼瞼浮腫を認める。これらの症状は心脾両虚と称し、半夏厚朴湯と帰脾湯または補中益気湯を処方し、症状は改善する。脾は眼瞼を養い、まぶたが重い、開け難いというのがこのタイプに特徴的である。次は瘀血(血流欝滞)による症例。43歳、女性、両眼の奥の痛み、顔ののぼせ、肩こり、足の冷え、便秘、尿量減少を訴える。舌の裏の静脈の怒脹、舌の腫れ、脈弦滑(緊張し強い)、顔面紅潮、臍の左下方に硬結と圧痛、両下肢の浮腫、体力強壮を認める。瘀血と水滞(水の欝滞)と考えて、桃核承気湯と猪苓湯を処方し、症状は改善する。更年期にもこの様なつかれ目が起りやすい。

体には各臓腑と目を繋ぐ、気血が流れる経絡という連絡網が存在する。肝と心の経絡は眼球と脳を繋ぐ目系(視神経)に、腎の経絡は脊髄から脳を通り目系に連絡する。胆の経絡は側頭部、目じりに連絡する。膀胱の経絡は背部、頭頂部を通り目頭に連絡する。これらは『黄帝内経』という中国伝統医学の聖典に記載されている。パソコンなど長時間の注視作業は血に影響し(久視傷血)、血の多い目にも影響することも記載されている。この様に臓腑を治療し目の症状を治すことができます。

目の病気の予防には
五臓六腑を保養する,すなわち、目の使いすぎやストレスをさけ、こころをおちつけ節酒し、「肝」「心」を保養し、美食過食、味の濃い食物、栄養失調をさけ、「脾」をまもり、呼吸法(腹式呼吸)を工夫し汚れた空気をさけ、「肺」をまもり、生涯に一番消耗しやすい腎精をまもるため、性欲をコントロールしつつ、又よく歩行し「腎」を大切にすることである。冷えがあれば冷えをとる。目の病気の東洋医学的治療については次回に。    
 
明代の眼科全書の現代語訳と注釈解説の書、巻上。巻下
   
訳者  斉藤宗則  孫基然
主編  黒木 悟 
監修  安井廣迪
出版社 六然社、東京 2011年 巻上   2016年 巻下
黄帝内経  参考
 
学会報告
(日本東洋医学会学術総会等)
網膜色素変性の3症例
漢方治療による加齢黄斑変性の1例と硝子体出血の1例
滲出型加齢黄斑変性症の1例
若年性開放隅角緑内障の1例
甲状腺眼症の1例
漢方治療中に腎機能が改善
正常眼圧緑内障の1症例
打撲が誘因と考えられた黄斑浮腫
加齢性黄斑変性
若年性開放隅角緑内障の続報3例
滲出型加齢黄斑変性の2(eAMD)
糖尿病黄斑浮腫6症例
2024年11月  黒木眼科医院

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古典に記述される予防法